日本のスタートアップに新たなスタンダードを 投資家が語るestieの未来像


座談会参加者(以下、敬称略)

  • グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナー 湯浅 エムレ 秀和氏
  • 東京大学エッジキャピタルパートナーズ 取締役COO パートナー/マネージングディレクター 坂本 教晃氏
  • グローバル・ブレイン Investment Group General Partner 梶井 健氏
  • モデレーター estie 代表取締役 平井 瑛


estieは2024年10月、シリーズBラウンドで国内外の投資家計5社を引受先とした28億円のエクイティ調達が完了しました。これにより累計調達額は45億円を突破。
今回のラウンドには、世界中で複数のユニコーン企業への投資実績を有するグロース投資家であるVertex Growthと、不動産金融市場の牽引者である日本政策投資銀行(DBJ)が主要投資家として参加したほか、estieをシード・アーリー期から支える全既存投資家が追加出資に参加しました。
今回の座談会では、既存投資家であるグロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)、東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)、グローバル・ブレイン(GB)の3名にシリーズAからシリーズBにかけてのestieの歩みやestieに期待していることなどをお聞きします。

全既存投資家が過去ラウンドの全てでフォローオン

平井: 前回までのラウンドから引き続き、シリーズBでの追加投資をいただきありがとうございます。今回のシリーズB投資について、社内でどんな議論があったのか、また投資を決めた理由や僕たちに期待していることを教えてください。

坂本: 投資委員会での議論の際、当社の戸田にestieのプロダクトを実際に触ってもらい、どのように使われているのかをじっくり確認してもらいました。その結果、彼が「これもうスゴいプロダクトですね!」と言ってきたんです(笑)。不動産業界に縁のない彼が、こんなに強く「これは絶対にやるべきだ」と主張したのは初めてです。やはり、プロダクトの力の大きさを実感した瞬間でしたね。

またestieは人材面でも本当に魅力的なんです。以前、グロービスの方が「メルカリって何がすごいの?」とインタビューを受けていたときに、「社内に社長になれそうな人が7、8人いる」と話していたんですよ。まさにそれがestieにも当てはまると思っていて、私が知っているだけでも、スタートアップの社長になれるような人材が7、8人いるんです。その点は本当に素晴らしいですね。

エムレ: 今回の投資は、僕たちにとって3回目で、もう4年近いお付き合いになるんですが、この3回のなかで圧倒的にスムーズな投資委員会でした。過去4年間を一緒に過ごしてきて、売上は[非開示]倍、プロダクトの数も1つから10つまで増えて、すべてが順調に成長していたので、これからもサポートしていこうというのは自然な流れでした。

ただ、論点としては2つありました。1つは投資条件で、「バリュエーションが高いね」という話(笑)

坂本: 毎回その話になりますよね(笑)。

梶井: 変わらず感じているのは、潜在市場が大きく、まだまだ可能性を秘めた商業用不動産市場に、圧倒的に 優秀な人材が集まっている点ですね。estieがこの巨大な市場を狙って、正しいイシューを解決していけば、高い確率で大きなインパクトが出せるだろうと考えています。実際に業界も少しずつ変わり始めている中で、やはりポテンシャルは非常に高いと感じました。今後はさらに上昇気流に乗って、アップサイドもぜひ実現してほしいという期待を込めて、今回の投資を決めました。

エムレ: さらなるアップサイドは重要ですね。DaaS(Data as a Service)とSaaSを超えた展開をどこまで目指せるのか、それをどのタイムラインで実現できるのか。バリュエーションが高いこと自体は問題ないですが、それに見合うだけの大きなアップサイドをどう織り込めるかという点が投資委員会の関心事でした。DaaS/SaaSはすでに複数のプロダクトがPMF(プロダクトマーケットフィット)している状態なので、これからも成長を続けていけると思っています。加えて、さらにどんな新しいビジネスを構築していくのかというチャレンジに大きな期待を抱き、今回の追加投資を決めました。

東京大学エッジキャピタルパートナーズ 取締役COO パートナー/マネージングディレクター 坂本 教晃氏

シリーズAから何が進化したのか?名実ともにコンパウンド化が進展

平井: シリーズAからBまでの2年半の間、estieの成長や変化についてどう感じていますか?

坂本: 一番大きな変化は、組織の拡大ですね。人数はもちろんですが、社員のバックグラウンドも以前とは大きく異なってきていて、より多様になってきたと感じます。

エムレ: シリーズAの前後からバーティカルSaaSの代表格となるべく「マルチプロダクト戦略」や「コンパウンドスタートアップ」というコンセプトを打ち出し始めていましたが、当時は少し大きく言い過ぎている部分もあったかもしれません。本当にPMF(プロダクトマーケットフィット)していたのは1つだけで、他はいくつか作りかけのプロダクトがあるような状況でした。でも、この2年半で、名実ともにコンパウンドスタートアップと呼べる企業に成長してきたと思います。

特に、事業のKPIを見ても、NRR(ネットレベニューリテンション。既存顧客の継続性を示すSaaSの重要指標)が非常に高く、成長が加速しています。それに、顧客が1つのプロダクトを導入するよりも、2つ以上導入することでさらに価値が増すようなプロダクト間の連携も実現しています。これは、まさにこの2年半で大きな進展だと思いますね。

それを支えるためには、多くのプロダクトを開発できる体制が必要ですし、坂本さんがおっしゃったように、事業を率いるリーダーや将来的に社長を担えるような人材がたくさん入ってきたことが、この成長を支える大きな要因だと感じています。

グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナー 湯浅 エムレ 秀和氏

優等生なだけじゃダメだ

平井: では、estieの課題はどんなところだと思いますか?「まだ平井には言ってないけど不安だな〜」と感じている部分などがあったらぜひ教えてください(笑)

坂本: 僕から言ってもいいですか。ずっと言おうと思っていたんですよ。

平井: 怖いですね…なんか(笑)

坂本: いやいや、大したことじゃないですよ。僕が気になっているのは、組織としての追うべき短期的な目標はなんだろうってことです。長期の「産業の真価を、さらに拓く。」というパーパスは組織に強くインストールされている一方、短期のオペレーショナルな事業運営はまだまだ改善点がありそうですね。

平井: 坂本さんがおっしゃる通り、日々の事業運営については改善点だらけです。逆に、僕たちが強みと感じているのは、パーパスである「産業の真価を、さらに拓く。」という長期的なビジョンが、社員全員で共有されている点ですね。長期的なビジョンはしっかりと全社員の意識や目標と一致しているされているけれど、そのビジョンにどう具体的に到達するのかという道筋はいろいろな選択肢があります。

平井: 梶井さんは弱点や課題だなと思うポイントはありますか?

梶井: 全体的には大きな問題はないと感じています。あえて言うなら、圧倒的な優秀な人材を、いかに正しいイシューにあてていくかということと、その上でもう一段「ぐっと」大きく成長するための足掛かりをどう作っていくかということを考えています。どうしても組織の性格的に優等生な打ち手が多くなってしまう印象がありますが、人材のポテンシャルから考えると、estieはこんなものではないだろうと思っています。

平井: それは確かに一つの弱点かもしれませんね。良くも悪くも、estieは乱暴なことをあまりしないんですよね。

別に論理だけで物事を進めているわけではないのですが、意識しないとどうしてもロジックに寄っていってしまう傾向がある人が社内には多い気がします。でも、本当に大事なことってそれだけじゃないんですよ。

僕たちのValuesの1つ目である「魂ドリブン」が象徴しているように、心から情熱を持った人がその仕事を信じて取り組んでこそ成果が出るんだと思っています。ロジックだけではなく魂に従って動くことが大切だよねと今年に入ってから組織的に合意ができたので、ここからどんどん仕掛けていきますよ。

エムレ: スタートアップって、大小課題が山積みだと思いますが、投資家として最も気にしているのはどこまで事業を大きくできるかという点です。そこそこのDaaS/SaaS企業として上場しました、というのではestieとしては全く物足りない。どれだけ大きなチャレンジができるかという点が常に関心事項です。

梶井さんが言っていたように、これだけ大きな市場で、やれることも多いなか、アジアのCoStar的な存在、いや、それを超える存在になってほしい、なれると思っています。そんな未来を見据えると、やるべきことはまだまだ多いと感じています。

また、先ほど社長級の人材が多いという話が出ましたが、それも7〜8名ではまだまだ足りない(笑)これからもっと必要になってくるんだと思います。各プロダクトが一つのユニコーン級に成長し、その集合体がestieであるという未来を描くと、場合によっては日本国内だけでなく、アジアにもマーケットは広がるかもしれません。そうなると、マネジメントするために社長級の人材が100人必要な時代が来るかもしれませんし、その方々が率いる人材もさらに必要になります。DaaS/SaaSを超えた次の展開に本格的に着手する時には、さらに多くの人材を確保し開発スピードを上げる必要があると感じますね。

平井: 確かに、社内でも「ここまでいけば時価総額1兆円以上」という目線はメンバーも含めて共有されていますし、日々の会話に出てきています。さらに「自分たちはどこまでいけるのか」という議論もしていますね。そして3社ともそれぞれ初回投資からずっとご支援いただいているということで、「もっとやれるでしょ?」という無言のプレッシャーも感じています(笑)

エムレ: もちろん、これまでの実績がしっかりしているので、そこに対する信頼はありますが、今回の追加投資は今後のポテンシャルに対する期待から来るものですよ。

平井: スタートアップには「マーケットはあるのか?」と「君たちにできるのか?」という2つのリスクがついて回りますが、僕たちはどちらかというと「君たちにできるのか?」というリスクに賭けている感じです。既存の巨大なマーケットは誰が見ても存在しています。ただ、「君たちができるのか?」という問いに対して、常に挑戦し続けています。まさに、100年後の人々が「あの頃はこうだったらしいよ!」と驚きを持って話せるような変革に挑んでいるので、まだまだやることは山積みですね。

グローバル・ブレイン Investment Group General Partner 梶井 健氏

新たなスタートアップのスタンダードを作る

エムレ: 勝手ながらの期待ですが、私はestieに「日本のスタートアップの新しいスタンダードを作ってほしい」と思っています。estieが歩んだ後に、新たな道が切り開かれているような未来を期待しているんです。かつては、基本的に1つのプロダクトにフォーカスして一点突破を目指すのが主流でしたが、大きなことを成し遂げるためにはそれだけでは足りず、領域内のすべてを取りに行くようなコンパウンド型のアプローチが求められています。ただ、本当の成功事例はまだ少ないので、estieにはこのバーティカル領域で成功を収めてほしいですね。

さらに、SaaSから始まり、次のステップとしてプラットフォームを通じてトランザクションを行う流れも掲げられていますが、これもまだ実現している例は多くありません。これを新しいスタンダードにしてほしいですね。

また、タイミングはわかりませんが、日本のスタートアップで海外、とりわけアジアで成功している例は少ないので、estieには少なくともアジア市場で成果を上げてほしいですね。不動産業界という大きな市場に向き合う中で、スタートアップエコシステムの1プレイヤーとして、このエコシステム自体を1つ上のレベルに引き上げてほしいと期待しています。期待がてんこ盛りですが(笑)


最後に

平井: 今回のシリーズBで調達した資金で取り組むのは、さらなるマルチプロダクト化の進展、M&Aの実行、AI投資の3本柱です。それぞれ個別に見るとスタートアップでもよくある戦略かもしれませんが、これら全てを掛け合わせて、このバーティカルな領域で突き詰めていった場合にどうなるか、というのはまだ誰も通ったことがない道です。もちろんこの道を成功させたいですし、成功した暁には、それをスタートアップエコシステムに還元していきたいと考えています。

明治維新のように、100年後や200年後に振り返ったときに「この意思決定が社会を豊かにした」と言われるような決断がいくつかあると思うんです。それを支えるのは一人一人の意思決定の積み重ねです。100年後に振り返れば歴史になるような仕事が今も世界中で起きていると考えると、僕自身もそういった歴史に残るような仕事をしないと。

そしてestieは、僕だけではなく、社員の一人一人がそういった信念を持っていることが自慢です。今後も社員一丸となって、挑戦を続けていきます。

写真左から湯浅 エムレ 秀和氏、梶井 健氏、estie 代表取締役 平井 瑛、坂本 教晃氏

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