あなたは、なぜ実績抜群でも、VPoPやCPOになれないのか?


こんにちは。estieで執行役員 VP of Productsを担っているkubotakuです。このブログは、4月の estie PM Meetup に向けたブログシリーズとなっており、「PM Blog Week」第3弾 最終日のブログです。<<前回ブログ 覚悟が人を自由にする - estie inside blog>>

今回PM Meetupでは「10年後に生き残るPMとは」というテーマでディスカッションする予定です。非常に大きなテーマですし、「一介のスタートアップがそんなこと話せるのか?」という懸念はありますが、「どこかの有名な誰か」が話したことを受け売りとして扱う以上に、今足元でプロダクトマネジメントに取り組んでいる我々がそこに向かって問いを立てて考えることが大事なのではないかと思っています。

ということで、毒になるか薬になるかはわかりませんが、一緒に頭を悩ませる機会としてぜひお越しいただけると幸いです!

さて、そんなテーマでイベントを実施するという前提で、本日は「PMとVP / CPOの間に流れる川」について書きたいと思います。

「あの人はPMとして素晴らしい実績があるのに、なぜVPoPやCPOになれないのだろう?」
「自分はこれほどに成果を出しているにもかかわらず、機会がない」

確かに、個々のプロダクトを成功させる能力はVPoP(Vice President of Product)やCPO(Chief Product Officer)になるための重要な条件の一つです。しかし、それだけでは十分ではないのも事実です。

なぜなら、どの職種もそうですが、メンバーとマネジャー、マネジャーと役員(VP / CxO)の間には大きな川があります。

本記事では、「PMとして求められるスキルや視点」と、「VPoPやCPOとして必要とされるもの」の違いと、その差を生み出す5つの観点を深掘りして言及していきます。

1. マネジメントするスコープの違い

1つ目は、「マネジメントするスコープの違い」です。

PMの主な役割は、担当するプロダクトを成功させることです。プロダクトビジョンを描き、プロダクト価値を表現する指標を定め、ユーザーインタビューを通じてユーザーニーズを把握し、ロードマップを策定し、具体的なプロダクト開発を推進します。プロダクトのもたらす世界観は勿論、具体的かつ細かな改善までが含まれます。

一方、VPoPやCPOになると、プロダクト単体ではなく、複数プロダクト間の相互関係や、プロダクトポートフォリオ全体の最適化が求められます。各プロダクトがどのように連携し、市場においてどのような競争力を持つのか、全体戦略の整合性が同様に問われます。これには、ユーザーの個別課題解決だけではなく、所属する市場や競合環境を俯瞰した視点が不可欠です。

このケイパビリティは、たとえCPOロールを担っていなくてもシニアなPMであれば持ち合わせている方もいます。その意味では、PMとしてのケイパビリティの延長線上に最も近いかもしれません。ただし、「延長線上に近い」であって、「延長線上にある」わけではありません。

ポートフォリオマネジメントは投資判断であり、「多くのヒトモノカネのリソースを保有しそれを振り分ける」という経験が必要とされるためです。自分自身を振り返ってみると、スタートアップの社長室として経営リソースの分配を担っていた経験や、事業責任者として事業マネジメントをしていた経験がここに生きているように思います。

このように、PMキャリアだけで突き進んだ先にその経験は必ずしも出来ません。

これが1つ目の川です。

▼参考
直近このpodcast聴いていて、めっちゃ頷きました。プロダクトポートフォリオをきちんと描くのはこの一歩目になると思います。
#44 プロダクトロードマップよりもプロダクトポートフォリオ計画 - Product DeepDive | Podcast on Spotify

2. 意思決定スケールの違い

2つ目は、「意思決定スケールの違い」です。1つ目の「マネジメントするスコープの違い」と連動している部分もありますが、ここでは時間軸やマクロ環境の要素を含んでいます。

一般的なPMは比較的短期的な視野で意思決定をします。もちろん2-3年先を見据えながらロードマップを描くこともありますが、小規模なプロダクトでは、機能改善やバグ修正、新規機能の導入など、数ヶ月から1年以内の意思決定が主です。

しかしVPoPやCPOは、数年先を見据えた長期的かつ戦略的な意思決定が求められます。これには、プロダクトだけではなく、経済環境や政策の変化、市場全体の変化、テクノロジーの進化、ユーザー行動のトレンドなどを幅広く把握し、未来を予測する力が必要です。また、VPoPやCPOは、より高いレベルでリスクを取った意思決定を求められることも多く、市場参入や撤退、M&Aなど、企業全体に大きなインパクトを与える判断を下さなければならない場合もあります。

これに関しては事前に全く同じ疑似体験をすることは難しいかもしれません。「意思決定のスケール」はそのレイヤーにならねば経験できないこともあります。例えば私で言えば、現在取締役たちと「M&Aを前提としたプロダクト戦略の検討」や「超長期からのバックキャストでの新規事業創造」などを行っていますが、これは今の役割だからこそ期待されているものもあります。

ここに備えることが出来る要素があるとするならば、「意思決定に対する胆力」「失敗に対するレジリエンス性」を経験したり身に着け続けることかもしれません。「成果を上げる」というのも大事ですが、「とてつもない失敗」や「困難に陥った際の突破の数」といったものが大切なのではないかと考えています。

これが2つ目の川です。

3. ファイナンス視点の有無

3つ目は「ファイナンス視点の有無」です。

PMの場合、プロダクトの予算管理は一般的に与えられた範囲内での管理となります。場合によっては予実管理もPMMや事業責任者が担っており、PMはあくまでプロダクト指標の改善が中心になります。

しかし、VPoPやCPOになると、企業全体の財務戦略との整合性を保ちながら意思決定することが求められます。そのためには、ROI(投資収益率)、利益率、キャッシュフローの管理や最適化、ユニットエコノミクスの成立(収益向上の成立)といった財務的視点が不可欠となります。

時には、投資家や経営陣に対して財務的な合理性を持った説明をする責務もあります。投資家が納得するストーリーを構築し、資本市場からの信頼を獲得することも必要です。これが欠けていると、いかにプロダクトが優れていても、経営者や投資家の支持を得ることが難しくなり、長期投資の蓋然性の証明が出来ません。

これまた、通常のPMでは身につかないものでもあります。私自身はたまたま前職で資金調達に携わっており、投資家向けのピッチ資料においてエクイティストーリーの構築に曲がりなりにも取り組んだ経験があり、これらを補うことが出来ています。
YMのピッチ資料をチラ見せ!素人でも出来る資金調達資料の作り方|久保 拓也

これを正当なルートで身に着けていくには、ファイナンスの本を読む、積極的にCFOとディスカッションするなど、キャッチアップするための自己学習が不可欠です。

これが3つ目の川です。

4. 組織マネジメント能力の違い

4つ目は「組織マネジメント能力の違い」です。こう記載すると、さもVPやCPOが組織マネジメント能力がありそうに見えますが、実際的にはその経験の有無と言っていいかもしれません。

PMとしては、自分が所属するプロダクトチーム内でのマネジメントが求められますが、基本的にはラインマネジメントではなく、プロダクトビジョンやKPI、ロードマップでチームをリードします。数名から十数名のチームで、個々のメンバーと密接にコミュニケーションを取りながら開発を進めるということが多いかと思います。

VPoPやCPOになると、自身のラインにPMメンバーが紐づく形になり、ラインマネジメントが必要となります。また、開発組織についても、自分自身が直接マネジメントすることはありませんが、その規模は数十人から数百人の規模に拡大します。組織全体の生産性を上げていくための開発プロセスの刷新や、組織開発的なアプローチをCTOやVPoEと取り組んでいく必要があり、「プロダクトマネジメント」という領域に留まらなくなります

この点は、一度事業責任者となって思いきりラインマネジメントを経験してみる、社内の横断的な業務改善ミッションやHRBPとして組織開発を担うことで身に着けることが可能ではないかと思います。弊社の勝田も今回のブログで「プロダクトマネージャーを経験した後に、別職種を経験することで”強いPM”になれる」という話をしていますが、ジョブローテーションはPMにも必要な刺激です。

これが4つ目の川です。

5. コミュニケーションレベルの違い

5つ目は「コミュニケーションレベルの違い」です。

通常のPMは具体的なプロダクトに付随したコミュニケーションを行います。開発チームやユーザー、ステークホルダーとのやり取りが主であり、ディスカバリーで生み出す価値や、具体的な仕様、改善点を明確に伝える能力が求められます。

VPoPやCPOの場合、コミュニケーションの対象は大きく変わり、経営陣、投資家、業界関係者など、より抽象的かつ戦略的な対話が求められます。プロダクトの詳細ではなく、企業全体がどこに向かい、どのような未来を作ろうとしているのか、そのビジョンを明快に伝えるストーリーテリング能力が必要です。「経営戦略や事業戦略」と「プロダクト戦略」をアラインさせるための「コンテキストマネジメント」が重要であり、その翻訳家としての役割を担います

これは、各ステークホルダーと積極的に対話することはもとより、コンテクストマネジメントをより強く経験するということが重要です。これは個人的な意見ですが、このコンテクストマネジメントは「ミドルマネジャー(いわゆる中間管理職)」を経験することで強烈に身につくと考えており、積極的に「板挟み」にあうことをお勧めしています笑

これが5つ目の川です。

そんなに色々やれるわけないだろ!

どこからか声が聴こえてきた気がします。

「そんなに色々やれるわけない(機会がない)」

わかります。
でも、だからこそ、「延長線上にはない」ということなんだと思います。

不都合なことに、これらの差分を埋めることは必要です。この事実は変わりません。

最初からすべてを満たしている人は多くありませんが、その期待がかかるような経験値や姿勢はないと任されないのが現実です。そういった役割を任されている人は、結局これらのことをやれているんですよね。

どうやって川を超えるのか

少しずつでも良いので、この5つの川を越えていくための取り組みを続け前進するしかありません。

ここまで話してきた5つの川

それぞれの正統派アプローチとしては、以下が考えられます。

  1. 複数プロダクトを横断的に経験することで視野を広げる
  2. 中長期的な戦略的意思決定の経験や、異次元のチャレンジと失敗を繰り返しスケール感を養う
  3. ファイナンス知識を深める学習やCFOとの壁打ちを通じ、プロダクトをファイナンス的に捉える
  4. 組織開発ミッションや人材育成に携わったり、ジョブチェンジを経験するなどを通じて、組織マネジメントを経験する
  5. ミドルマネジメントの経験や経営陣や投資家への説明責任を果たし、コンテキストマネジメントを学ぶ

いずれも、その経験をするための機会獲得が必要不可欠ではあり、経験を得ることの難易度が高いと言えます。やはり道は険しい。

しかしながら、朗報です。estieでは上記を経験する機会がたくさんあります。

estieは事業部制や事業部CPO制を導入していることで、本来VPやCPOが担うべき役割を各事業部CPOが担える設計になっています

estieの事業部CPOはプロダクト戦略を中心にマネジメントを担う役割ですが、以下のような経験を得ることが可能です。

  • 複数プロダクトにまたがった横断的なマネジメント
  • プロダクトの中長期に跨る意思決定や挑戦的な投資判断
  • IPO前後を見据えた収益構造の構築やレベニューマネジメント
  • 事業部ごとの開発組織のマネジメント関与
  • 取締役や投資家への説明責任を直接果たす機会やミドルマネジメント経験

こう言った経験を踏まえることで、「川を渡る経験」をかなり積みやすいと思っています。

「我こそは川を渡りたいんだ!」という方は、是非estieへの入社をご検討いただけると嬉しいです。

hrmos.co

最後に

本日は「PMとVP / CPOの間に流れる川」について述べてきました。

最後の最後にポジショントーク全開になってしまいましたが、この川は間違いなく存在しますし、乗り越えていく中でキャリアの可能性が拓けていくと思っています。

一方で、VPやCPOを目指すことだけがキャリアパスではありません。今後、市場環境は変化していきますし、多様なキャリアが生まれていくと思います。

そんな変化の激しいマーケットの先、「生き残り続けるPM」とはどんな人物なのか、何を指針としてどこを目指していくのか。4月のPM Meetupでディスカッションしていきますので、こちらも興味ある方は是非ご参加ください!

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