退去費用の相場3つ|費用を軽減するポイントや原状回復の定義も紹介

田中 陸(Riku Tanaka)

目次

  1. 退去費用の相場とは?
  2. 退去費用に関わる原状回復の定義4つ
  3. 退去費用の相場3つ
  4. 退去費用の相場と費用を軽減するポイント5つ
  5. 賃貸借契約書の特約の要件3つ
  6. 退去費用の相場は物件や業者によって異なる

退去費用の相場とは?

原状回復とは、賃貸物件から退去する際にエアコンやガス給湯器などの設備を含めて、室内の状態を元に戻すことです。


原状回復するために要する費用は原状回復費用と室内クリーニング費用に分けられ、一般的に敷金から充当されますが、敷金の範囲を超える費用が発生した場合は、状況に応じて借主か貸主のどちらかが負担することになります。


退去費用の相場は、部屋の広さ、住居年数、傷などの状況により異なります。

退去費用に関わる原状回復の定義4つ

生活する中で、借主の意図によらない経年劣化や、故意または過失により傷や汚れが発生することがあります。これらの修繕費用は、これから紹介する「原状回復の定義4つ」に基づき、貸主または借主のどちらかが負担することになります。


退去時のトラブルを未然に防ぐためにも、退去費用の負担が誰であるかを理解しましょう。

退去費用に関わる原状回復の定義1:経年劣化や自然・通常損傷

生活している中で入居者の行為にかかわらず、日光の影響により壁や床の色が変化することや、ベッドやタンスなどの重い荷物を置くことで発生する床のへこみなど、時間の経過に伴う劣化や通常使用における損傷等が発生します。


これらの経年劣化や自然・通常損傷は借主の責任ではないため、劣化等に対する原状回復費用の負担は、原則として貸主が負担することになっています。

退去費用に関わる原状回復の定義2:故意または過失

一方、経年劣化と対照的なのは、故意または過失による傷や汚れが発生した場合です。


主な例として、タバコのヤニ汚れや焦げ跡、ジュースなどをこぼした際の汚れ、壁の落書きなどは故意・過失とみなされ、原状回復費用は借主が負担することになります。


タバコのヤニ汚れは日常の清掃により、過度の汚れを防ぐことが可能です。退去費用の増加を抑えるためにも、普段から部屋をきれいに使うことを心がけましょう。

退去費用に関わる原状回復の定義3:善管注意義務違反

善管注意義務は、民法400条により「債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない」と定められています。


つまり、借主である入居者は、自宅であるからといって好き勝手に住居を使用せず、退去に伴う貸主への返却までは、節度を持って大切に使用することが義務付けられています。


清掃を怠ったことによる過度の汚れやカビの発生などが、善管注意義務違反に該当し、この場合は貸主から原状回復費用を請求されることがあります。

退去費用に関わる原状回復の定義4:通常の使用を超えるような使用

通常の使用を超えるような使用による消耗・き損とは、前述の善管注意義務違反のとおり、経年劣化や自然・通常損傷を超えた傷や汚れのことを指します。


主な例としては、重いものを落とした時に発生した床の傷に加え、備え付けのエアコンや給湯器などの設備を適切に使用しなかったことによるき損などがあげられます。


通常の使用では発生しない傷や汚れが発生すると、原状回復に伴う退去費用は借主が負担することになります。

退去費用の相場3つ

原状回復費用と室内クリーニング費用の合算額を退去費用といいます。ここからは、退去費用の相場について紹介します。


退去費用の相場は、物件の広さや間取りの状況、クリーニングを要する箇所などをはじめ3つの要素から決まります。

退去費用の相場1:物件の広さや間取りで異なる

退去費用の請求額は物件の広さや間取りによって相場が異なります。


ワンルームの場合の平均退去費用は49,980円であり、2DK・2LDKは79,924円、3LDK・4LDKは90,139円となっています。


間取りが大きいほど請求額が高くなるのが特徴です。

退去費用の相場2:クリーニングする箇所による

退去費用の中には室内クリーニング費用が含まれており、退去費用はクリーニング箇所により異なります。それぞれのクリーニング箇所の相場についてまとめました。


紹介するクリーニング箇所とは、壁の壁紙の貼り換え、壁のボードの取り換え、床材のクリーニング、床材の張り替え、カビ・キッチン汚れなどのクリーニングの5つについてです。


なお、物件の広さや汚れの程度によって相場は変動しますので、注意が必要です。

壁の壁紙の貼り換え

前述したとおり、落書きやタバコのヤニ汚れが顕著である場合は、借主が負担することになります。


壁紙の張り替え費用の相場は、1平米あたり1,000円程度であることから、6畳の部屋であれば約5万円が相場となります。


また、釘穴やネジ穴の跡が多くある場合も借主に張り替え費用が請求されることがあるので注意が必要です。

壁のボードの取り換え

壁に関連する原状回復には、壁紙の張り替えのほかにボードの取り換えが発生する場合があります。何かしらの理由により壁に穴を空けてしまうと、壁紙の内側にある木質の板や石膏ボードが損傷することにより、借主負担の原状回復が求められます。


損傷の程度は範囲により金額は異なりますが、5センチ程度の穴であれば2~3万円程度といわれています。損傷範囲が広くなるほど、請求額は高額になります。


壁に穴が開いてしまうと、住居の強度がさがるほか、雨漏りの原因になるなどのデメリットがあるので、万一の場合は早急に対応しましょう。

床材のクリーニング

床材のクリーニングは壁紙同様に、借主である入居者の使用状況が大きなポイントになります。日常生活で生じる自然・通常損傷以上の品質低下があった場合は借主がクリーニング費用を負担することになります。


床材のクリーニングは、浮き上がらせた汚れを除去した後に新たにワックスを塗ります。一般的な作業であれば6畳あたり1万5千円程度が相場ですが、UV塗装などの加工をおこなうことで費用は高くなります。

床材の張り替え

通常の使用を超える使用方法により、床に大きな傷やへこみが生じた場合は、クリーニング作業では原状回復に至らないため、床材の張り替えが必要になります。


床材の張り替え方法には、既存の床材を撤去したうえで新しい床材を張りなおす方法と、既存の床材はそのままに新しい床材を重ね合わせる方法があります。


新しい床材を張りなおす方法であれば、一般的なフローリングの場合は概ね10万円程度が相場になっています。

カビ・キッチン汚れなどのクリーニング

キッチンにおけるレンジフードの油汚れや、シンクなどの水回りにおけるカビの発生を放置してしまうと、退去時にクリーニング費用が発生する場合があります。


キッチンのクリーニングを業者に依頼した場合の相場は、レンジフードが1万円程度、シンク周りが1~2万円程度であり、その他排水管清掃等を含めたキッチン全体のクリーニングでは4~5万円程度になっています。

退去費用の相場3:業者によって費用が異なる

これまで紹介した原状回復費用や室内クリーニング費用はあくまでも目安であり、実際の請求額は業者により異なります。なお、一般的に業者選定は貸主がおこなうことになっています。


しかし、業者によっては高額請求される場合があることから、原状回復やクリーニングの作業範囲、その妥当性について、十分な説明を受けるようにしましょう。

高額請求時の注意点

退去費用の見積もりや請求が高額であるなど、納得できない金額を提示される可能性もあります。


まずは不動産管理会社に連絡して値下げ交渉に加えて十分な説明を求めるほか、それでも納得できない場合は国民生活センターや消費生活センターに相談しましょう。

退去費用の相場と費用を軽減するポイント5つ

これまで、退去費用の相場について紹介しました。ここからは少しでも負担費用を軽減するためのポイントをまとめます。


ポイントとは、自分で掃除・修復する、不動産会社や管理会社に相談する、入居時から注意しておく、小まめにメンテナンスし壁や床を汚さない・傷つけないことの5つです。


それぞれのポイントを押さえることで、スムーズかつ低費用の退去を目指しましょう。

退去費用を軽減するポイント1:自分で掃除・修復する

特に喫煙者の場合は、壁紙の変色や独特な臭いが発生するため普段の掃除と退去前に壁や床の掃除が欠かせません。


同様に、キッチンやお風呂などの水回りではカビが発生しやすいので、日常の掃除をおこなうことで対応しましょう。


重曹やセスキ炭酸ソーダは、頑固な油汚れを落とし、臭いを消す効果もあるので掃除に上手に取り入れてみるのもおすすめです。

退去費用を軽減するポイント2:不動産会社や管理会社に相談する

退去費用が高額であった場合、不動産会社や管理会社に相談することで費用を軽減できる可能性があります。


エアコン、電気、給湯器などのガス設備において原状回復が必要となった場合の費用負担は、契約時の賃貸借契約書により定められています。


この賃貸借契約書に基づき、借主または貸主のどちらが費用を負担するのか、あるいは真に原状回復の必要性について問い合わせることで、正しい退去費用の見解を示してもらいましょう。

退去費用を軽減するポイント3:入居時から注意しておく

賃貸物件に入居する際、入居時の室内状況等を記録することや写真に収めることで退去費用を軽減できることがあります。


仮に、入居当時から劣化している箇所があり、退去までの間に劣化状態が悪化しなかった場合でも、退去の際に原状回復を求められるケースがあります。借主に責任はないものの、退去時の様子だけで判断されてしまうことが原因です。


こうした事態を避けるためにも、入居時の状況と退去の状況を写真により比べることで、不要である原状回復の責務を回避できます。

退去費用を軽減するポイント4:小まめにメンテナンスしておく

経年劣化や自然・通常損傷は避けられない側面があるものの、エアコンや給湯器などの設備は日頃からメンテナンスをおこなうことで、退去時の費用を軽減できます。


エアコンのフィルター清掃・交換や、各種設備の作動状況をチェックし、異常があればすぐに管理会社等へ連絡することでトラブルを未然に防ぎましょう。


なお、経年劣化であっても、著しく状態が悪化した場合も速やかに管理会社等へ連絡して指示を仰ぐことも重要です。

退去費用を軽減するポイント5:DIYで壁や床を汚さない・傷つけない

DIYにこだわるあまり、壁に穴を空けたり床を傷つけてしまうことが少なくありません。


賃貸物件はあくまでも借り物であることから、DIYそのものは禁止されていなくても、退去時は原状回復することが求められます。


このことからも、退去費用を軽減するためには、過度なDIYは控えることが無難です。また、DIYをする際は、念のため管理会社や貸主等の了解をもらうことをお勧めします。

賃貸借契約書の特約の要件3つ

賃貸借契約書とは、物件情報、契約期間、解約方法、賃料などについて書かれており、賃貸借契約書には特約が付加されていることがあります。


退去費用に関するポイントは、暴利的ではない客観的・合理的理由がある、通常の原状回復義務を越えていることを認識している、義務負担の意思表示をしていることの3つです。


この3つの特約を付加されていることで、原状回復にかかる費用は借主が負担することになります。

賃貸借契約書の特約の要件1:暴利的ではない客観的・合理的理由がある

賃貸借契約書に「暴利的ではない客観的・合理的理由がある」という特約が付加されることで、経年劣化や自然・通常損傷を含めた原状回復を借主に請求できます。


しかし、貸主が本特約を拡大解釈することで、一方的かつすべての原状回復を借主に請求することは無効とされています。

賃貸借契約書の特約の要件2:通常の原状回復義務を越えていることを認識している

賃貸借契約書の特約である「通常の原状回復義務を超えていることを認識している」とは、前述同様に原状回復の特約を付加するための要件です。


通常の原状回復義務を超えているとは、経年劣化や自然・通常損傷以外に、借主の行為による汚れや傷などが発生した際に該当し、この場合の原状回復費用は借主が負担することになります。

賃貸借契約書の特約の要件3:義務負担の意思表示をしていること

最後に紹介する要件は、「義務負担の意思表示をしていること」についてです。


これも前述同様に、経年劣化や自然・通常損傷に伴う原状回復費用は貸主が負担し、借主の行為による傷や汚れの原状回復費用は借主が負担することについて合意することです。

退去費用の相場は物件や業者によって異なる

退去費用の相場やポイントについて解説しましたがいかがでしたでしょうか。


退去費用を少しでも抑えるためには、日常の清掃や各種設備のメンテナンスが重要です。不測の事態が発生したときは速やかに管理会社等へ相談し、退去時のトラブルを防止しましょう。

監修

執筆者
田中 陸(Riku Tanaka)
経歴
東京大学経済学部卒業後、住友不動産入社。オフィスビルのアセットマネジメントを担当し、海外事業部にて世界主要都市の市場調査や投資検討に従事。 estieでは、セールスマネージャーとして営業や事業開発を手がける。 ベンチャー感を出すため、ヒゲと伊達眼鏡をトレードマークにしている。
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